それから

ちょいと読んでかない?30代、心に響く本や音楽、その他のコト

MAGICAL WORLD

「人間界、生きづらいです」というのは鬼束ちひろの言葉である。
今から4年くらい前の発言なので、彼女の年齢は30歳を超えていた。私も30歳を超えて、同じことを思っている。むしろ歳を重ねるごとにその感覚は増すばかりだ。人間界が生きやすい人にとっては、「30も過ぎて何言ってんだか」と思われることが予想されるが、それこそが私を生きづらくしている思考だ。

○歳になったら、こうなっていなければいけない。日々生活していると、折に触れてその圧力を感じる。プライベートでは、いい年になったら「彼氏がいなければいけない」「結婚していなければいけない」「子供がいなければいけない」。仕事では、「就職しなければいけない」「年収は何百万円くらいはなければいけない」「これくらいの地位についていなければいけない」。ければいけない。ケレバイケナイ。

東京タラレバ娘よりも、日本ケレバイケナイ現象の方が深刻だと思う。そもそもタラレバ娘を生み出している根源は、そういった、「こうなっていなければいけない」という社会の無言の圧力に違いない。それがなければ、彼女たちの心はもっと自由なはずだ。

そんな圧力に苦しんでいる私を苦しめる言葉がもう一つある。
「人は人と思いなさい」というものだ。
「こうなっていなければいけない」と要求しながら、「人は人と思え」という矛盾。

鬼束ちひろの言っている「生きづらさ」が同じものかはわからないけど、彼女の歌を聴いているとその生きづらさが緩和される。世界の醜さを糾弾し、その中でもがく自分を嘆き、同じ思いを背負う人を癒す。それが彼女の歌の力だ。

また彼女の歌は、世界というものを批判しながらも、いい意味で「世界平和」などといった壮大な思想を感じさせないところが素晴らしい。あくまで、個人の持つ「世界」を歌っている。裏を返せば、個人の持つひとつひとつの世界が平和にならなければ、世界平和など成し遂げることはできないのだ。鬼束ちひろは、たぶんそのことを知っている。

「MAGICAL WORLD」という曲は、なんだか皮肉なタイトルだなあと思った。
こんな世の中でも魔法のように感じる瞬間は、確かにある。誰かが自分に好感を持ってくれた時、仕事で誰かの役に立てた時、それくらいだけれど。
生きづらさを感じる毎日で、そういう一瞬のきらめきに縋ることをどうか咎めないで欲しい。人間界が生きやすいと感じているあなたからは、何も成し遂げていないように見えるかもしれないけれど。

仕事に疲れ、終電の到着を待つホームで鬼束ちひろの曲を聴きながら、私はこっそりと明日も生きていく決心をする。

Tiny Screams

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